2015.05.01 Friday
大きな月。 
あの夜の月もそうだった。 

助けてもらうつもりで入った病院で 
思いがけない病名を聞く。 
そしてこれも思いがけない父の涙。 

その7年前から、私は父の事務所で働くようになって 
父を先生と呼んでいた。 
一緒に働いている弟は中田くん、夫も先生。 
顧問先になる上の弟もいとこも社長と呼んで 
身内の中にいながら 
私はひとりぼっちだった。 

狭い診察室には座るところがなくて 
父は診療ベッドに座っていた。 
座るにはベッドは高くて 
父の両足はぶらぶらしていた。 

これ以上なにもできないこと。 
べつの病院を探して欲しいこと。 
退院して欲しいこと。 


驚き過ぎて、もうなんにも感じなかった。 
ただぶらぶらする父の足を見ていた。 
するとどこからか嗚咽が聞こえた。 

わしが代わります。 
わしが代わりますから 
娘をを助けてやってください。 

わあ、ドラマみたいや。 
普通のおとうさんみたいや。 
こんな陳腐なせりふを、吐く人ではないはずなのに。 
母の葬儀でも泣かなかった人なのに。 

自分の言われたことよりも 
泣いている父のほうが不思議だった。 

私たちはよろよろと部屋を出て 
千日前通りで大きな月を見上げた。 
どうして父は泣いているんだろう。 
これから私たちは、どこへ行けばいいんだろう。 

あの月の高い夜、 
病気と引き換えに 
私たちは親子に戻った。 
もう遠い春の月の夜。 


予約外

2015.04.23 Thursday
ここのところ咳が続いて 
背中やら脇腹やらがイタイ。 
咳よう出るなあと息子も言うし 
熱もちょっとある。 
次の診察は来週だし 
今日だったら担当の先生に診てもらえるし 
予約外の待ち時間を覚悟して出かけた。 

受付でさっそく待ち時間かかりますよと念をおされる。 
はいわかってます。もうベテラン患者ですからね。 

思っていたより早く1時間くらい待って番号を呼ばれた。 
ドアから中をのぞくと先生がわあ!どうした!って。 
診てもらいに来たんに決まってるやん。 
ひとりで来たんか? 
おとうさん具合悪いんか?って。 
いえいえ義妹も父も現役でも働いてるんで。 
そっかーひとりかあ。 
なにがっかりしたはんの。 

採血とレントゲンのために外へ。 
そこからまた1時間。 
「診察室の前に診察は1時間遅れです。の表示。 
すみませんねえ。予約外で時間とってしもて。 

検査結果は異常なし。 
しばらくおとなしくしときなさいって。 

今度は3人でおいでな。 
おとうさんによろしくな。 
おとうさん元気にしたはるねんな。 

はあ、申し伝えます。 
いったい誰の主治医やねん。 


工事3

2015.04.18 Saturday
工事はべた遅れらしい。 
お天気が悪かったり、 
風が強かったりしたもんね。 
雨にぬれた金属パイプをかかえたおにいさんに 
エレベーターを譲られた。 
いやいやおにいさんから先にと言ったら 
いえ、住人の方優先ですからって。 
泣かしよるなあ。 

工事は最上階の12階から。 
ドリルの音が3階の我が家へ近づいてきている。 
昨日はうちのベランダの水洗い。 
高圧洗浄機でブッシューってすごい音。 

あー見たい!見たいよう。 
でもね、絶対人影見えてるし 
目が合ったらはずかしい。 
邪魔せえへんから見せて欲しいわあ。 
あ、それが邪魔なんか。 

今週でベランダ工事が終わるはずやったけど 
送れているので来週もですって連絡あり。 
洗ったあとはなにすんのかな。あーやっぱり見たい。


合評会

2015.04.15 Wednesday
評会は苦手。 
ほかの人の読みを聞いてるのは好きだけど 
まだ私には、その距離感しかわからない。 
遠いからきらいとか 
近いから好きとか 
そういうんじゃないんだけど。 

ふーんへーほーと 
読んでいるところまでは楽しい。 
その人がいて言いにくいとか 
いい読みをしたいとかそんなんじゃなくて 
ほんとにそこまでで固まってしまう。 
とりつく島がないっていうか。 
あかんなあと思いながら 
この次もたぶん一緒。 
もしかしたら私は 
読みたいと思っていないのかも。 


  プリクラボックスにしらない人ぎっしり 

  春のおじさんが小銭の音させて      紺 


4月11日

2015.04.14 Tuesday
娘の30回目の誕生日でした。 


カードの合評会と重なり 
夜も遅くなるので本人にきいてみた。 

家でお祝いする? 
友達と遊びに行く? 
誰か来るの? 
ケーキはいるの? 

いるわーいと娘。 
いるんなら買うやんか。 
いやがるんかなあと聞いてみたんやんか。 

おかあさんは30のときなにしてたんと娘。 
忙しすぎて覚えてへんわ。 
3人目を産んで一ヶ月で30になって 
右手でベビーカー押して 
左手で手を繋いで 
おねえちゃんはスカートの裾を持たせて歩いてた。 
だからジーンズも履けず。 
おねえちゃんが べしゃっとこけても 
起こしてやることもできなかった。 

若かったなあ。しんどかったなあ。 
娘の今とはえらいちがい。 

でもまあ機嫌ようやっておくれ。 
30もいややろけど 

娘が30はもっといややで。 


須磨

2015.04.09 Thursday
懐かしい町がテレビに映っていた。 

須磨寺には親戚のケーキ屋さんがあって 
ぬっくぬくのシュークリームを食べさせてもらった。 
祖父の法事のあと離宮公園でバドミントンをして 
めったに昼間には活動しない漫画家のいとこは 
貧血を起こして倒れてしまった。 

塩屋には叔父がいた。 
一族で一番お金持ちで 
香港と台湾、武庫之荘にも家があった。 
叔父は事業に失敗して、あかん全部持っていかれたと言って倒れた。 
今は車椅子で、大阪の団地にいる。 

震災前に親戚のほとんどが店を閉め 
残っているのは名谷に叔母がひとり。 
山陽電車は戦隊ものみたいな顔になってた。 

今は大阪のおばちゃんですが 
生まれは神戸市須磨区平田町2丁目。


入学式

2015.04.09 Thursday
昨日の眼科からの帰り。 
千日前通りの信号を渡ったあたりで 
たくさんの人が坂からおりてきた。 
きれいな服着た人ばっかりなので 
入学式やったんかなと思う。 

その中で唯一普通の服を着た人。 
普通のっていうかキタナイ人。 
まさかと思ってたら上の弟。 

おねえさん、高校の入学式だったんですと 
となりにはきれいなスーツの義妹。 

あんたまさかこの恰好で行ったんか。 
でしょう、おねえさん。 
なんとか言うたってください! 

よく見えない目でもわかる。 
キタナイ上着にキタナイパンツにスニーカー。 
なんでスーツ着ィひんの! 
だってなあ着てもなあ 
一緒に写真も撮ってくれへんねんで。 
友達とわいわい言うて、教室から出てけえへんから帰って来た。 
当たり前やん、そんなキタナイとうちゃんいややん。 

そうやコイツは母のお葬式のときも 
スーツを着るのを嫌がった。 
放っておいたら 
仮通夜もお通夜もキタナイままやった。 
本葬が始まる直前につかまえて 
着替えへんねんやったら 
即刻帰れと脅かした。 
するとおいおい泣きだして、 
喪服はなあ、 
おかんが死んだから着るんやろ。 
オレはなあ、そんなん認めへん。 
認められへん。そんなん嫌や。 
そやから喪服なんか着ィひん。わーん。 

子どものように泣く弟の腕を控室まで引っ張って 
借りておいた喪服を投げて 
5分で着替えんと叩き出すからなと叫んだ。 
あのときと一緒やないか。 

180くらいあるから 
スーツも似合うやろうに。 
あの日の喪服が、弟のスーツを見た最後。 


また眼科

2015.04.08 Wednesday
今日は眼科。 
なにかの検査をするみたい。 
下の娘が今日は付き添い。 

廊下で待っていると看護師さんが来て 
はい、瞳孔をひらく目薬ねって。 

すぐあと先生に呼ばれて診察室に入る。 
はい、ぼくのほう見てー。 
はいじょうずー。 
あれー瞳孔開いてませんねー。 

目薬しましたよね。 
はい、ついさっき。 
そりゃ開きませんねー。 
はい、目薬追加しましょうね。 
はい、外で待っててください。 

外に出ると聞こえていたらしく 
娘が方を震わせて笑うのを我慢している。 

おかあさんの先生は 
ほんまにみんなおもろいな。 
ほっといて。 
私のせいとちゃうやん。 

20分ほどしてまた呼ばれる。 
はい、開いてますねー。 
よーく開いてますねー。 
ちょっと眩しいですよー。 
はいがんばってー。 
上見てがんばってー。下見てがんばってー。 
はいじょうずですー。 

まぶしいのより 
笑うのを我慢するほうがたいへんやった。 
5時間くらい見えにくいですよって。 
いえいえもうすでに見えにくいので 
変わらないといえば変わらない。 
娘に手をひかれてよちよちと帰る。 
あかんなあ。もう頭上がらへん。


新券

2015.04.03 Friday
「いつもきれいなお札で、ありがとうございます」と 
マッサージのおにいさん。 
あ、そんなことに気がつくんやね。 

昔からきれいなお札と古いお札を分けて遣っている。 
父の事務所で働いていると 
急にきれいなお札が必要になる。 
お札だけではなくて 
ビール券、たばこ券、商品券 
両替のお札、のし袋、ぽち袋。 

今でもそんな習慣は残っていて 
出かけるときの財布には 
両替できるくらいのお札や硬貨が入っている。 
帰ってくるとすぐに 
お札や硬貨を分けてしまう。 
硬貨はキオスクみたいな一列に並べるケースに。 

昔みたいには必要じゃないから 
銀行で新券に両替したりはしないけど 
知ってる人にお金を払うときは 
なるべくきれいなので払いたい。 

でもこんなふうに気付かれてしまうと 
なんかプレッシャーやないの。 
きったないのしかなかったらどうしよう。 
そのときはいっそ 
ぴかぴかの500円玉で払うかな。 


春の訃

2015.04.02 Thursday
の訃              大阪市     久保田 紺 



       うっすらと届く春の日の訃報 

       知りたくて知りたくなくて掻き混ぜる 

       返せない小瓶の中の輪ゴムたち 

       溶けてゆかないまま口に含んでも 

       辛子にまみれたやさしい人でした 

       イヤホンの中でさくらは散りすぎる 




http://www7a.biglobe.ne.jp/~yoko-senryu/newpage15.html


RECENT ENTRIES

ARCHIVES

RECENT COMMENTS


PROFILE

SEARCH


MOBILE
qrcode

OTHERS