レントゲン室の前で順番待ち。
隣の空いた椅子に、おかあさんと小さな女の子が来た。
女の子は元気いっぱいで、
こっちを見てにこにこ笑っている。
反対におかあさんは、暗い顔で下を向いている。
「あいちゃんが手術やったら、運動会出られへん」
「来月の旅行も行かれへん」と
不安そうに呟いている。
あいちゃんて誰だろう?
レントゲンを撮るようなけがは女の子はしていない。
足をぴょんぴょんさせて元気いっぱい。
この子のきょうだいのことなんだろうか。
「運動会行くー」
「旅行も行くー」と女の子が言っているのに、
「行かれへんかもしれへん。
どうしようどうしよう」とおかあさん。
「あいちゃんねー、運動会行くよ」と女の子が言った。
あ、この子があいちゃんなんか、と思ったとたん
おかあさんが顔を上げた。
「あんたがあんなもん飲み込むからやろ!」
そうか、レントゲンはけがのときだけじゃなかった。
なにかを飲み込んでしまったんやね。
あいちゃんは、おなかの中を撮ってもらうんやね。
おかあさんは泣きだしてしまった。
なにもできないまま私は、名前を呼ばれてそこを離れた。
おかあさん、しっかり。
あいちゃん、しっかり。
おなかが痛くならないように、
運動会にも旅行にも行けるように、
通りすがりのおばちゃんは祈っています。