母方の叔父は、板宿でお好み焼き屋をやっていた。
商店街の一番奥の、結構大きな店だった。
毎朝ダンボールで届くたくさんのキャベツとネギ。
大きな包丁で、すごいスピードで
叔父はキャベツを千切りにしていった。
粉は、ポリバケツで溶く。
大きなポリバケツがいくつも並んでいた。
叔父は誰にもお好みを焼かせない。
中央の大きな鉄板で、全部自分で焼いていた。
いくつものお好みをどんどん返していくのは見事だった。
店にはレジもなく、受け取った代金は
叔父の前掛けのポケットに入っていた。
ときどき裏に帰ってきて、
盥の中にざざっとお金をあけて、
また叔父は戻って行った。
お札も硬貨も一緒くたに入った盥を眺めては、
私はこの叔父が、世の中で一番お金持ちなのだと思っていた。
店はとても繁盛していて、
のれんを下げないと店員さんは
昼食もとれないくらいだった。
あるとき急に叔父が、店をやめると言い出した。
「もうあきた。こんなにせわしないのはいやや」と言って。
私たちはびっくりしたけれど、
その叔父はフラメンコのギタリストでもあったので、
その仕事をするのだと思っていた。
しばらくして叔父は、同じ場所でまた店を始めた。
今度はうどん屋。
「今度はキャベツも切らんでええし、
ゆっくりできるで」と叔父は言ったが、
やっぱり今度の店も繁盛した。
前より長い行列が、店の前にできるようになった。
「こんなはずやなかってんけどなあ」と、
やっぱり叔父は、じゃらじゃらと
盥にお金をあけ続けていた。